Miyamoto Lab/

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Columnコラム

08 「最近の学生は内向きで」と嘆く前に
 心地よい初夏の風が佐賀平野を吹き抜ける頃,南アリゾナは夏本番を迎える。日中の気温は45℃に迫り,地平線まで続くアスファルトは熱でひび割れる。湿度は一桁に低下するため,息をするたびに喉が渇く。それでも,「今日はマイルドな方だ」と,この地に永く住む知人は笑顔で話す。そんな灼熱の地に位置するアリゾナ大学で,2011年4月より約10ヶ月の研究生活を送る機会を得た。
 アリゾナ大学との共同研究が軌道にのった頃,佐賀大学農学部同窓会から留学記の執筆依頼を頂戴した。パソコンの前に座り,どのようなことを書くか思案した。吐き出したい有象無象がないわけではないが,同窓会報には不向きなものばかりである。悩んだ末に,日本人留学生が抱える就職にまつわる悩みを紹介することとする。
 ご存知のように,我が国の大学は評価・競争の時代に突入し,教育研究を取り巻く環境は大きく変貌した。この間の学生の気質の変化も目覚しく,いわゆる"内向的な学生"が急増していることは,多くの人が感じるところであろう。そのせいか,海外で学びたいと思う学生は,特に男子学生を中心に激減している。米国への留学生数が2000年代初頭をピークに漸減しているのに対して,韓国・中国出身の留学生は増加の一途たどっていることから,日本人の元気のなさが際立つ。
 しかし,自ら道を切り開く野心的な日本人留学生がいるのも事実である。そうした若者をアリゾナ大学キャンパス内で見かけると,つい話し込んでしまう。郷土・祖国に対する熱い想いを胸に,いずれ祖国で活躍することを夢見て異国で勉学に励む彼らなら,さぞや将来も順風満帆だろうと思いきや,必ずしもそうではないという。その理由は,就職の難しさにあるという。時期を逸したり,大手就職斡旋会社が敷いた所定のレールを逸れたりすると就職しづらくなる日本特有の就職活動文化や,採用した留学経験者を上手く活用することができない企業が少なからずあることが,彼らにとって大きな不安要素になっている。さらに,現地採用を行う日系企業への就職は別として,太平洋をまたいで就職活動を行うのは経済的にも難しい。
 インターネットを利用した就職活動が全盛期の今,インターネット上では様々な情報が飛び交っている。ある留学経験者の就職にまつわる失敗談・挫折体験がインターネットを介して誇張されて拡散し,"留学=就職できない"といった誤った先入観が若者の間で定着しつつある。そうした先入観に囚われた若者は,リスクばかりが気にかかり,留学の醍醐味については目もくれなくなるのである。留学に対する"負のイメージ"が,先述の留学生数減少に拍車をかけているのであろう。
 今や,チャンスとみられなくなりつつある留学。。。しかし,多様な価値観の中で研鑽を積んだ人材がもたらす新たな息吹は,我が国を覆う閉塞感を打破するうえで必要であることは,誰も否定しないであろう。にもかかわらず,そうした若手人材を国内で生かすことが十分に出来ていないとしたら,そんな勿体ない話はない。「最近の若者は,どうも内向的で・・・」と嘆く前に,異国で学ぶ若者が我が国で活躍できるよう,就職活動の仕組みや人材活用のあり方を考え直そうではないか。
 「昔は,南アリゾナにもたくさんの日本人留学生がいたんだけどねぇ・・・」と悲しげに語った,ある日系人夫婦の言葉が耳に残る。近い将来,そんな状況が一変するよう今後の佐大生の奮起に期待し,個人レベルでも若者の留学支援を行いたいと考える今日この頃である。

The mind is not a vessel to be filled but a fire to be kindled.
知性とは,満たすべき器ではなく,燃やすべき炎である)

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