土の”見える化”支援サイト

土壌観測応援コミュニティ
Powered by Hideki Miyamoto

基準とする手法:ケーブルテスターを利用した時間領域反射法(TDR)

メーカー / 国内代理店 Campbell Scientific / 太陽計器
測定方式/通信規格/測定周波数 時間領域反射法(TDR) / - / 土壌水分感応帯(1.2GHz)を含む広帯域マイクロ波信号
出力項目 見かけの誘電率(εa)/電気伝導度(σb)
体積含水率(θ)の精度 ☆☆☆☆☆ 5点 高い
温度(T)および電気伝導度(σb)が
θに及ぼす影響
☆☆☆☆☆ 5点 小さい (補正不要)
学術研究への適用事例数 ☆☆☆☆☆ 5点 膨大
メーカーによる情報提供量 ☆☆☆☆☆ 5点 多い
多項目測定の可否 ☆☆☆☆☆ 5点 
土壌への挿入の可否 ☆☆☆☆☆ 5点 
評価者の
コメント
 Toppら(1980)の研究以降,土の調査・研究手法を根底から変えた革命的な手法です。土壌学,環境科学,地質学,水文学,気象学,土木工学等の広範な分野において多用されてきた実績と,それを通して膨大な知見は大きな財産であり,現在もなお,その高い信頼性には定評があります。誘電率を出力できるセンサーとそのユーザーは,この膨大な知見を効果的に利用できるという恩恵を享受できます。当コミュニティでは,ケーブルテスターを利用したTDRを基準(5点/5点満点)と定め,それに対する各センサの性能を相対的に評価します。

① EC-5

メーカー / 国内代理店 METER ENVIRONMENT(旧Decagon Devices) / アイネクス
測定方式/通信規格/測定周波数 静電容量法 / アナログ / 70MHz
価格(税別) ¥16,000
出力項目 RAW
体積含水率(θ)の精度 ☆☆☆☆ 4点 高い
温度(T)および電気伝導度(σb)がθに及ぼす影響 ☆☆☆ 3点 高精度の測定を行う場合は補正が必要
学術研究への適用事例数 ☆☆☆☆☆ 5点 膨大
メーカーによる情報提供量 ☆☆☆☆☆ 5点 多い
多項目測定の可否 評価対象外   否
土壌への挿入の可否 ☆☆☆☆☆ 5点 
評価者の
コメント
 世界で最も多く流通しているMETER ENVIRONMENTのECH2Oプローブの水分計測専用モデルです。体積含水率ではなく,RAWを出力するものの,Topp式や自前の校正式の適用を想定した「RAWε変換式」に加え,Topp式が通用しない土での利用を想定したいくつかの校正式,充実したアプリケーションノート,使い勝手のよいハード・ソフトウェア等が整備されているという点において,他社のセンサーを圧倒しています。土壌学の研究者を抱え,世界中に販路を持つ企業だからこそできる神対応でしょう。国内の正規代理店にも,ECH2Oプローブに精通した土壌の研究者が在職しているため,我が国特有の悩みにもきっと相談に乗ってもらえるでしょう。
 ただし,センサーの測定周波数が70 MHzと低いため,出力値の温度・電気伝導度依存性が認められることが,たびたび報告されています。そのため,高精度の測定を必要とする研究者・技術者は,やや煩雑ですが,出力値の補正を行って使用しています。比較的安定した環境下で,ある程度の精度で十分である場合,校正せずに利用するユーザーも多いようです。多くの測定者が膨大な実績をあげていることから,価格に見合う性能を有するセンサーです。

② 5TE(生産終了)

メーカー / 国内代理店 METER ENVIRONMENT(旧Decagon Devices) / アイネクス
測定方式/通信規格/測定周波数 静電容量法 / SDI-12 / 70MHz程度
価格(税別) ¥46,000
出力項目 RAW/電気伝導度(σb)/温度(T)
体積含水率(θ)の精度 ☆☆☆☆ 4点
温度(T)および電気伝導度(σb)が
θに及ぼす影響
☆☆☆ 3点 高精度の測定を行う場合は補正が必要
学術研究への適用事例数 ☆☆☆☆☆ 5点 膨大
メーカーによる情報提供量 ☆☆☆☆☆ 5点 多い
多項目測定の可否 ☆☆☆☆☆ 5点 
土壌への挿入の可否 ☆☆☆☆☆ 5点 
評価者の
コメント
 世界で最も多く流通するMETER ENVIRONMENTのECH2Oプローブの多機能モデルです。水分計測性能はEC-5と同程度であるため,詳細は割愛します。このモデルでは,EC-5と違って電気伝導度と温度を同時に測定できるため,電気伝導度および温度補正を含め1組のセンサーで全て完結します。そのため,同センサーの愛用者は多く,世界中で利用されています。多機能モデルであるため,EC-5より高額ですが,実績と信頼性を備えた優良センサーです。なお,このモデルは,2020年3月末で生産終了とのことです。

③ TDTセンサ

メーカー / 国内代理店 Acclima / クリマテック
測定方式/通信規格/測定周波数 時間領域透過法(TDT) / SDI-12 / 土壌水分感応帯(1.2GHz)を含む広帯域マイクロ波信号
価格(税別) ¥45,000
出力項目 見かけの誘電率(εa)/Topp式に基づく体積含水率(θ)/電気伝導度(σb)/温度(T)/波形解析情報(Propagation time,Maximum slope等)
体積含水率(θ)の精度 ☆☆☆☆☆ 5点 高い (±1%)
温度(T)および電気伝導度(σb)が
θに及ぼす影響
☆☆☆☆☆ 5点 小さい (補正不要)
学術研究への適用事例数 ☆☆☆☆ 5点 膨大なTDR研究の知見をそのまま利用可能
メーカーによる情報提供量 ☆☆☆☆ 4点 柔軟な対応
多項目測定の可否 ☆☆☆☆☆ 5点 可
土壌への挿入の可否 ☆ 1点 否 (構造上,埋設するしかありません)
評価者の
コメント
 世界初の時間領域透過法(TDT)方式の多機能センサーです。見かけの誘電率に加え,世界標準式(Topp式)に基づく体積含水率,電気伝導度,地温等に加え,ハイエンドユーザー向けに時間領域波形およびその解析情報等も出力できます。ケーブルテスターと同等のマイクロ波ステップパルスの送受信機能と,ピコセカンドオーダーの時間分解能を有するオシロスコープ機能を内蔵しているうえに,水分計測に及ぼす温度・電気伝導度の影響は無視できるほど小さく,その性能はケーブルテスターを利用した本家TDRを凌駕しています。過去40年間,先人達がにTDRを用いて蓄積してきた世界中の膨大な土壌電磁物性データ(たとえは,ε-θ式)をそのまま利用できるため,適用事例は膨大であると言って差し支えないでしょう。因みに,管理人が初めてこのセンサーを見た時は,驚愕のあまり腰を抜かしそうになり,TDTシステムの開発を諦めるきっかけになりました。
 ただし,米国の塩類土壌研究用に開発された経緯から,デフォルト設定のまま使用すると,低電気伝導度条件における電気伝導度の測定ができません。もし,この領域の電気伝導度を測定するなら,Maximum slopeを出力させて電気伝導度に変換すれば測定できます。最大のウィークポイントは,ループ状の感知部構造を有するため,土壌を掘り起こして埋設せざるを得ないことです。埋設するのが気になる(土壌断面に挿入したい)方は,使用を控えた方がよいでしょう。
 後発の海外メーカーが開発したセンサーであるため,認知度はECH2Oプローブに遠く及びませんが,トップレベルの研究者が愛用する最高水準のセンサーです。国内の代理店は,ありとあらゆる測定に対応できる企業が務めていますので,測定初心者から研究者まで幅広くお勧めできるセンサーです。

④ TDR-315,TDR-315L,TDR-315H

メーカー / 国内代理店 Acclima / クリマテック
測定方式/通信規格/測定周波数 時間領域透過法(TDT) / SDI-12 / 土壌水分感応帯(1.2GHz)を含む広帯域マイクロ波信号
価格(税別) ¥45,000
出力項目 見かけの誘電率(εa)/Topp式に基づく体積含水率(θ)/電気伝導度(σb)/温度(T)/波形解析情報(Propagation time,Maximum slope等)
体積含水率(θ)の精度 ☆☆☆☆☆ 5点 高い (±1%)
温度(T)および電気伝導度(σb)が
θに及ぼす影響
☆☆☆☆☆ 5点 小さい (補正不要)
学術研究への適用事例数 ☆☆☆☆ 5点 膨大なTDR研究の知見をそのまま利用可能
メーカーによる情報提供量 ☆☆☆☆ 4点 柔軟な対応
多項目測定の可否 ☆☆☆☆☆ 5点 
土壌への挿入の可否 ☆☆☆☆☆ 5点 
評価者の
コメント
 TDTセンサーに続き,Acclimaが投入した多機能センサです。センサを構成する主要パーツや仕様はTDTセンサのそれらと共通するため,水分計測性能は③デジタルTDTセンサーと同等で,本家TDRを凌ぐ最高水準にあります。付け加えるとしたら,TDR-315シリーズでは,低伝導度条件における感度が向上(Giese and Tiemann(1975)の方法を採用)し,且つ,土壌に挿入できるプローブ状の感知部構造を有するため,TDTセンサーの2つの弱点が改善されているため,現時点において,欠点が見当たらない多機能センサーです。管理人は,予算と用途によって全てのセンサを使い分けていますが,最も信頼し,愛用しているのがこのTDR-315シリーズです。
 比較的新しいセンサーであるため,適用事例や知名度に欠けますが,TDTセンサーと同様,過去40年のTDR研究の知見をそのまま利用できるため,その点は気にしなくても大丈夫でしょう。代理店による手厚いサポートが受けられるので,TDR-315シリーズは測定初心者からら研究者まで幅広くお勧めできます。

⑤ WD-3(WD-3-WET)

メーカー / 国内代理店 A・R・P / なし
価格(税別) ¥47,700(Amazon.comのホームページより転載) 単出力モデルは\18,000
測定方式/通信規格/測定周波数 伝送遅延方式 / アナログ / 100MHz
出力項目 体積含水率(θ)/電気伝導度(σb)/温度(T)
体積含水率(θ)の精度 ☆☆ 2点 低い
温度(T)および電気伝導度(σb)が
θに及ぼす影響
☆☆☆☆ 4点 小さい (ただし,ずれが大きいため,別途,θの再校正が必要)
学術研究への適用事例数 ☆ 1点 非常に少ない
メーカーによる情報提供量 ☆ 1点 原則,非公開
多項目測定の可否 ☆☆☆☆☆ 5点 
土壌への挿入の可否 ☆☆☆ 3点 可 (感知部の構造上,埋設方向の制約を受け,ピンポイントの深度のデータを得ることができない)
評価者の
コメント
 数少ない国内メーカーA・R・Pによる多機能センサーです。自社で行った実験から求めた独自式に基づき,体積含水率,電気伝導度,温度等が出力されます。体積含水率の変化に対するセンサーの応答は良好であり,且つ,それに対する電気伝導度や地温依存性も比較的小さいことから,センサーの性能は他社センサに匹敵し得るもので,同社の高い技術力が随所に垣間見えます。
 しかし,乾燥密度,粒度組成,粘土鉱物種,有機物含有量等の差異によって多様性を示す我が国の土壌に対して,単一の自社式で体積含水率を評価しようとする非現実的な発想に加え,校正実験の手法に根本的な問題を抱えているため,Topp式が通用する一般的な土壌でさえ,体積含水率に換算すると膨大な誤差が生じます。そのため,体積含水率というより,単なる出力値(あるいは相対値)として出力結果を見なければなりません。さらに,「非公開」を原則とし,第三者が問題点させ見い出せない閉鎖的な社風への不信や,結局校正しなければならないという手間等が原因で,土壌関連業界ではほとんど普及していないのが実情です。
 一方,数少ない国産センサということも手伝って,非土壌関連業界(施設園芸や植物工場分野)では,異業種からの参入企業が多いせいか,市場の発展が後押しする形で利用拡大がすすんでいます。最近では,国産メーカーのIoTシステム用センサーとしても採用されています。しかし,相対的な変化しか検知できないにも関わらず,体積含水率を測定できるというふれ込みで測定初心者がセンサーを手にした結果,①炉乾法で求めた真値からかけ離れたり,②pF計と乖離したり,③データの共有化・標準化ができなかったり等,校正の問題に起因する弊害が,非土壌関連業界においても知られるようになりました。管理人にも,複数の方やIoT機器メーカーから同センサーの相談が寄せらていますが,そうしたユーザーの生の声をメーカーへフィードバックするよう勧めています。そのため,現時点では,測定初心者には他のセンサをお勧めせざるを得ない状況です。
 国内メーカーへの期待もあって,厳しいコメントが多くなりましたが,センサーの性能は高いです。その性能がきちんと発揮できるよう,土壌に対する見識を深め,適切な手法を採用し,ユーザー目線の開発・情報提供に務めれば,国内外でシェアを拡大できる可能性は十分に秘めています。今後の改善が待たれるところです。

⑥ WD-5(WD5-WTA-SDI)

メーカー / 国内代理店 A・R・P / なし
価格(税別) ¥51,800 (株式会社M.C.Sのホームページより転載),水分・温度出力モデルは,¥40,380
測定方式/通信規格/測定周波数 伝送遅延方式 / SDI-12 / 100MHz
出力項目 体積含水率(θ)/温度(T)/三軸加速度(α)
体積含水率(θ)の精度 ☆☆ 2点 低い (体積含水率に換算すると,最大で10%の誤差)
温度(T)および電気伝導度(σb)が
θに及ぼす影響
☆☆☆☆ 4点 小さい (ただし,ずれが大きいため,別途,再校正が必要)
学術研究への適用事例数 ☆ 1点 非常に少ない
メーカーによる情報提供量 ☆ 1点 原則,非公開
多項目測定の可否 ☆☆☆☆☆ 5点 可 (加速度センサーを実装)
土壌への挿入の可否 ☆☆☆☆ 4点 可 (WD-3より小型化したため,若干の改善)
評価者の
コメント
 WD-3の後継となるSDI-12対応の多機能センサーです。測定項目の異なる複数のモデルが用意されています。体積含水率の測定精度については,旧モデルの性能を引き継いでいることから,WD-3と同一の評価となり,詳細は割愛します。
 このモデルについて,良い点と悪い点を1つずつ列挙します。
 まず,よい点ですが,土砂災害が危惧される斜面へ適用できるよう加速度センサーを実装している点です。非常に画期的です。発売前より,熊本地震土砂災害現場において管理人が実施している長期試験においても良好な結果が得られており,センサーの安定性および併設された加速度センサーの性能は,申し分ありません。
 逆に悪い点は,Wd-3と同様,水分計測計測精度の低さにあります。そもそも,人命・財産にかかわる事象の監視用センサーには,農業用のセンサーと比較できないほど,高い信頼性が要求されます。斜面の滑動と,その誘因となり得る土壌水分の同時計測ができるとうたうのであれば,せめて他社センサーと同等の水分計測精度がなければ,普及は見込めないでしょう(管理人は,自分で再校正して利用しています)。水分計測精度を改善し,第三者による性能評価・鑑定を受け,実証事例を積み重ねれば,数十万ケ所という膨大な土砂災害危険個所を有する我が国の土砂災害開始技術の核となるセンサーとして普及する可能性を秘めています。そのため,何よりもまず,水分計測精度の早期改善を期待したいところです。

⑦ Capacitive soil moisture sensor(V1.2)

メーカー / 国内代理店 DFROBOT/ Amazon.comより購入可能
価格(税別) ¥170~¥1,000(5個セットで\850で購入できる場合がある)
測定方式/通信規格/測定周波数 静電容量式 / アナログ / 400kHz
出力項目 ・電圧(V)
体積含水率(θ)の精度 ☆ 1点 非常に低い
温度(T)および電気伝導度(σb)が
θに及ぼす影響
☆ 1点 膨大 (別途,ECセンサーを併設し,その値に基づき要校正)
学術研究への適用事例数 ☆ 1点 非常に少ない
メーカーによる情報提供量 ☆ 1点 少ない
多項目測定の可否 ☆ 不可
土壌への挿入の可否 ☆ 1点 可 (ただし,防水加工を自分でしなければ埋設は不可)
評価者の
コメント
 Amazonのレビューを見て,試しに3回に分けて計55個購入してみました。個体差は問題視するレベルではないものの,ロットや個体による差が大きいうえに,他の静電容量式センサーと比べ,矩形波の発信器として用いられたタイマーIC(NE555)の周波数が低い(100 kHz~1MHz)ため,出力値に及ぼす電気伝導度の影響が非常に大きく,別途,ECセンサーを埋設し,その数値に基づき補正しない限り,水分量を正しく評価できません(基盤の防水加工も必要です)。ただし,バルク電気伝導度が1.0 dS/mを超える高EC条件では,ECの影響が一定レベルに収れんするので,非常に限られた条件において,”それなりの精度”で利用できるセンサーです。
 相対的な水分量の変化を把握したり,ラズパイ,Arduino,M5Stackの勉強を兼ねて利用したりする分には丁度よいかもしれませんが,正しく水分量を評価したい人や,試験研究機関等の計測の再現性・信頼性が重視される人には,いくら安くてもすすめられないセンサーです。肉眼で,あるいは手で触ってみて,「濡れているか否かをざっくりと判別する程度の精度のもの」と思って利用しましょう。

⑧ GROVE Moisture Sensor

メーカー / 国内代理店 Seed studio/ Amazon.comやスイッチサイエンスより購入可能
価格(税別) ¥500~¥800
測定方式/通信規格/測定周波数 電気抵抗式 / アナログ / 400kHz
出力項目 ・電圧(V)
体積含水率(θ)の精度 ☆ 1点 非常に低い
温度(T)および電気伝導度(σb)が
θに及ぼす影響
☆ 1点 膨大 (ECセンサーそのものなので,両者の変化がそのまま出力に反映されます)
学術研究への適用事例数 ☆ 1点 ない
メーカーによる情報提供量 ☆☆ 2点 多少はある
多項目測定の可否 ☆ 不可
土壌への挿入の可否 ☆ 1点 可 (ただし,防水加工を自分でしなければ埋設は不可)
評価者の
コメント
 通販サイトでは,「水分センサー」として販売されていますが,使用する際は注意を要するセンサーです。土壌全体の電気伝導度は,水分量,土中水の電気伝導度,温度等の関数であるため,非常に限られた条件においてのみ,水分量を評価できる可能性がわずかに(?)あるものです。また,ECセンサーとしてみた場合,電気伝導度に対する応答が逆転する閾値があるのもネックになります。ざっくりと相対的な水分量の変化を把握したり,ラズパイ,Arduino,M5Stackの勉強を兼ねて利用したりする分には,丁度よいかもしれませんが,正しく水分量を評価したい人には,いくら安くても決してすすめられないセンサーです。
 このセンサーの特徴については,facebookグループに詳細に記述していますので,こちらをご覧ください。

⑨ TEROS-12

メーカー / 国内代理店 METER ENVIRONMENT(旧Decagon Devices) / メータージャパン
測定方式/通信規格/測定周波数 静電容量法 / SDI-12 / 70MHz程度
価格(税別) ¥43,000(税別)
出力項目 RAW/電気伝導度(σb)/温度(T)
体積含水率(θ)の精度 ☆☆☆☆ 4点
誘電率30~35を越える土壌や高EC土壌では,別途,補正が必要
温度(T)および電気伝導度(σb)が
θに及ぼす影響
☆☆☆ 3点 高精度の測定を行う場合は補正が必要
学術研究への適用事例数 ☆☆☆ 3点  今後,増加する見込み
メーカーによる情報提供量 ☆☆☆☆☆ 5点 多い
多項目測定の可否 ☆☆☆☆☆ 5点 
土壌への挿入の可否 ☆☆☆☆☆ 5点 
評価者の
コメント
 世界で最も多く流通するMETER ENVIRONMENTの最新型の多機能センサーで,2020年3月末で生産終了となった5TEの後継モデルです。耐久性と耐水性に優れていることに加え,堅牢な構造を有するため,硬い土壌にも容易に挿入できます。①EC-5や②5TEと同様,出力値はRAWですが,RAWを誘電率または体積含水率に変換する経験式が提供されているため(マニュアル参照),測定したRAWを両者に変換可能です。ただし,30~35以上の高誘電率条件,塩類土壌のような高EC土壌,Topp式が通用しない土壌等では,別途,校正を行わない限り,正確に体積含水率を評価することはできないため,用途・適用条件を考慮して賢く利用することが必要です。そうした点を考慮しても,総合的に見て完成度の高い優良センサーであると言えるでしょう。

⑩ LT5006 

メーカー / 国内代理店 村田製作所
測定方式/通信規格/測定周波数 静電容量法 / UART,RS232,RS485,RS485(MODBUS),SDI-12 / 200MHz
価格(税別) 不明
出力項目 体積含水率(θ)/電気伝導度(σb)/温度(T)
体積含水率(θ)の精度 ☆☆ 2点 (低い。自分で校正しない限り,確かな数値は得られない)
温度(T)および電気伝導度(σb)が
θに及ぼす影響
☆☆☆☆ 4点 
学術研究への適用事例数 ☆ 1点 (少ない。栽培関連分野でのみ,増える可能性はある)
メーカーによる情報提供量 ☆ 1点 (内部の計算プロセスがブラックボックス状態であるため検証することができない)
多項目測定の可否 ☆☆☆☆ 4点 可
土壌への挿入の可否 ☆ 1点 (個性的な形状で,厚みもあるので,埋設して利用することになる)
評価者の
コメント
 LT5006は,Meter EnvironmentのTEROS-12やAcclimaのTDT・TDRセンサ等と同様に,体積含水率(θ),バルクEC,地温等の同時計測機能を実装しています。海外メーカーのセンサとの最大の違いは,火山灰土の代表格である関東ローム(黒ボク土)において,最高性能を発揮するデフォルト設定となっている点です。我が国の農地の2割弱,畑地の5割弱に火山灰土が堆積している事実を考えると,火山灰土への適用を前提とした仕様にするのは,合理的であるように思われますが,実はそうではありません。結果的に,致命的な2つの問題を抱えてしまっています。
 1つ目は,火山灰土に特化したことによる計測の不確かさについてです。当コミュニティによる測定結果(左図)は,熊本県の火山灰土(黒ボク土)において求められたMiyamoto式に,比較的一致しているように見えることから,身の回りの火山灰土においても,マニュアルに記載された精度でθを計測できると勘違いしまいます。しかし,ここに大きな落とし穴があります。転圧や耕起の程度(つまり,乾燥密度)や有機物含有量の差異によって,火山灰土の比誘電率(ε)-θ関係を表す式は異なるため,あらゆる火山灰土を代表するような一意的な式を定義することが困難という事実があるのです。そのため,ここで例示したMiyamoto式も(左図),それに対するRMSE(右図)の数値も,参考値にすぎません。換言すれば,計測対象の火山灰土を供試材料として校正式を定めない限り,不確かなθ値しか得られないということです。土壌の性質の偶然の一致でも起こらない限り,マニュアルに記載された精度は保証されないので,この点をユーザーは十分に理解しておく必要があります。
 2つ目は,火山灰土に特化しているため,多くの土壌に適用しづらいことです。Topp式(左図)は,世界中の多くの土壌に通用する世界標準式です。しかも,この式が通用する土壌では,乾燥密度が変わっても通用するという大きな利点があります。当コミュニティによる測定データは,Topp式から大きくズレており(左図),このことはTopp式が通用する多くの土壌にLT5006を適用すると,同程度の大きな誤差が生じることを意味します。Topp式に対する計測値のRMSEが0.076 m3/m3と非常に大きく,競合メーカーのセンサの3-4倍程度の誤差が生じるので,計測された値については参考値として扱うにとどめ,相対的なθの変化を可視化するツールとして位置づける必要があります。誤差が大きいため,たとえ水分特性曲線を介してマトリックポテンシャルに変換してもpFと対応しないので,既存の灌漑・排水の目安(例えば,ほ場容水量:pF1.8,成長阻害水分点:pF2.7,永久しおれ点:pF4.2)とは別モノのこのセンサ固有の数値として,取り扱うようにしてください。
 以上のことから,デフォルト設定のまま利用する場合,火山灰土においては,計測値の信頼性は不明ではあるものの”それなりに増減傾向を捉える”ことはできますが,Topp式が通用する多くの土壌では全く通用しないというのが,当コミュニティによるLT5006の評価結果となります。また,内部演算プロセスの詳細が公表されていないため,古くから土壌センサを多用し,且つ農地を含むあらゆる土壌において多くの知見を有する土壌センシングのプロが集う先行分野(例えば,土壌科学,農業土木・地盤工学・土木工学・地球科学等)においても,先行センサを差し置いてまで,LT5006を積極採用する可能性は低いため,仕様が見直されない限り,このセンサの技術情報が蓄積・公開され,各業界の標準品となるのは難しいと考えます。異業種からの農業ICTへの新規参入企業間での利用拡大,特に,社内でデータを利用することで目的を果たす業界・業種において一時的に広がる可能性はありますが,アカデミアの下支えが期待できない以上,広く普及するとは考えにくいセンサです。
 なお,計測上級者は,デジタル変換された0x0F,0x10番地のレジスタの「ADC_PERMITTIVITY(比誘電率に相当する数値)」を取得して土壌固有の校正式を求めれば,先述の多くの問題点を改善できるでしょう。ただし,これはどのセンサにも当てはまることなので,評価する際にこの点は考慮しなかったことを申し添えます。

開発者への提言
 火山灰土は,多用な土壌電磁物性を示す土壌であるため,特定の圃場の計測結果に基づくでデフォルト設定では,同一火山灰土でない限り誤差が大きくなる可能性が高いうえに,他の多くの一般的な土壌では全く通用しないことになり,結果的にほぼ全ての土壌において確かな値が得られない状態に陥っています。「国内の・・・,農業分野の・・・,火山灰土の・・・」という限られた条件でしか利用されない事になりかねませんので,Meter EnvironmentやCampbell Scientific等の老舗メーカーや,後発メーカーでありながらも両社を凌ぐセンサを世に出したAcclima等のマニュアルや技術開発・技術情報の公表手法を参考にして,アカデミアの膨大な知見を上手に活用できるよな仕様,特にソフトの見直しと技術情報の公開(可能な限り)を行うことを,強くすすめます。

*記載内容に誤りがあれば,管理人・宮本へご連絡下さい。